昨日の友は今日の敵





ある朝、登校した千田は自分の教室、ではなく、図書室に向かった。
図書室は、千田もその一員である、阪東一派の根城だ。
秀臣の武装を倒すため、そのための鈴蘭も王手まであと一歩。
今が正念場だな、と考えながら歩いていたら、無意識に足がそちらに向いた。
図書室の中からは、人の気配がした。
というか、人の声がした。
プラス、音がした。
何かを力いっぱい殴りつけるときの、にぶい音だ。
鈴蘭の図書室は阪東一派の根城だ。
雑談も居眠りも、悪だくみもリンチも、ここで行われる。
朝っぱらから、ヘマ踏んだ奴が制裁でもされてんのか?と千田は思った。
一度でも失敗したら、リンチ。
それは、阪東が武装から持ち込んだやり方である。
嫌悪しつつも三代目のやり方に染まった阪東に、千田は一抹の不安をおぼえないこともない。
しかし、確かに効率は良かった。
それにしても……と千田は思った。
失敗したらリンチに遭うようなことを、ここ最近、誰かにやらせた覚えがない。
千田は、これでも阪東一派で自他ともに認める阪東の右腕である。
その千田が、まったく知らないうちに何かが行われたとすれば……。
嫌な予感がした。
千田は、図書室の扉に手をかけた姿勢で、このまま回れ右をして帰るべきか否か、逡巡した。
そのときだった。
扉が向こうから開いた。



扉の向こうから現れたのは、千田の予想どおりの人物だった。
「どけよ」
その人物、阪東は冷たく言い放つ。
言われたのは千田だ。
阪東は、扉の前に立って進路をふさぐ千田に向けて言い放った。
「邪魔だ」
千田がどかないと、更に言った。
血走った目で睨みつけ、口元に歪んだ笑みを浮かべる。
ブーツの爪先で、リズムでも取るように何度も床を叩く。
仮にも友人に対する態度ではない。
腹が立たないこともなかったが、完全にキレたその様子に、千田は素直に道を譲った。
自分は君子……では全然ないが、好んで危うきに近寄りたくはない。
キレた阪東に逆らうことは、虎の尾を踏む以上に危険だった。
仮にも友人に対する態度ではない、が、仮にも友人だからこそ、阪東は二度にも渡って言葉で自分の意思を伝えてくれた。
自分の意思を伝える、そのために阪東が取るスタンダードな手段は、言葉じゃない。
千田は、廊下を去っていく阪東の背中を見送った後、図書室の中に視線をやった。
嫌な予感は的中。
部屋の中には、千田の予想どおりの光景が広がっていた。



「おい、大丈夫か?」
千田は、図書室の床に転がった男たちに声をかけた。
親切心から、ではない。
この部屋で、誰かがリンチに遭ったりフクロにされたりしていても、原則として千田の反応は、それがどーした、である。
うす笑いを浮かべて、眺めていることだってある。
原則として。
つまり、例外もある。
「お前、大丈夫か?」
ボロボロになった学ランの「ような」服の肩に手をかけて揺すると、
「ウ、ウウ……」
うめき声が上がった。
顔面全部を血に染めている奴、鼻があらぬ方を向いている奴、歯が折れて「千田さん」が「へんだひゃん」になっている奴。
腕を押さえて七転八倒、腹を抱えて悶絶している横には、ペンキみたいな赤色の鉄パイプが落ちていた。
それを見てすべてを悟り、千田はため息をついた。
何にでも例外がある。
廊下に顔を出して通りすがりの一年をつかまえると、人を呼んでくるように言った。
原則に対しての例外、阪東のしたことは、つまり、酷すぎた。
床の上で、モゾモゾと動く、それら人間の「ような」ものたちの顔には、見覚えがあった。
またか、と千田は思った。
いささかウンザリする。
床に転がる男たちは、阪東一派の二年生だった。
「おい」
千田は、とりあえず口の利けそうな一人に声をかけた。
何があった?と聞くと、返ってきたのは、はたして千田の予想どおり、これまでにも何度か聞いたことのある答えだった。
何だかドッと疲れて、けが人の搬送は、駆けつけてきた後輩たちに任せて、手近のイスに千田は座りこむ。
秀臣の武装を倒すため、阪東一派は鈴蘭制覇まであと一歩。
この大事な時期に、一派のドン御自ら、ものすごく私的な理由で兵隊を減らすのは……。
ホント、頼むからやめてくんねーかな、と千田は思った。






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一巻より前の話。
ヒロミに謎の執着をし続ける阪東先輩が大好きなんですが、一派の皆さんは大変だったろうとも思います。
あと、千田は阪東の右腕ってヤスにも言われてるのに、阪東が春道のことを、俺の右腕にほしい男とか言うのは、千田がかわいそうだと思います。












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