バランス何それおいしいの?
「俺は?」
男も女も嫌いだ。
そう言うと、阪東は何故か嬉しそうに聞いてきた。
「俺は?」
自信満々の顔。
「きら…」
嫌い、と言いかけて頬を張られる。
ふざけんなよ、って言いたいのはこっちの方だ。
危うくベッドから落ちるところだった。
阪東の手が顔に当たる瞬間、変に身じろいだせいで頬骨の上を引っ掻かれた。
後頭部を掴まれる。
阪東は俺を仰向かせ、無造作に唇を重ねた。
侵入してきた舌に、思わず応えてしまった。
と、ニヤリ。
目を閉じて唇は合わせたまま、それでも阪東が確かに笑ったのを感じた。
「俺は?」
長いキスを終えて、阪東が俺の顔を覗きこむ。
「嫌い…」
言いかけると瞳が再び凶暴な光を帯びる。
「…じゃねー」
そう言ったときには、手首が、握りつぶされそうに強く握られてた。
骨がミシミシ鳴る。
上京してからの阪東は、元から痩せてたのが更に痩せた。
そのガリガリのどこにそんな力があるのって強さ。
「嫌いじゃねー、じゃねーだろ?」
握られた手を返される。
阪東は、痛みに眉間をしかめる俺を楽しげに見た。
楽しげに見ながら、でも、目は笑ってない。
「ヒロミ?」
名前を呼ばれて諦めた。
犬ならきっと耳伏せて、シッポも巻いた状態。
いつからどうして俺はこんな奴になったんだろう。
「…好き」
喉をしぼるように、ようやく出せたのは小さな小さな声だった。
それでも阪東は満足したらしく、俺を解放した。
「最初っからそう言えよ」
小突かれて、まぶたと言わず頬と言わず、顔中にキスの雨が降ってくる。
かさついた阪東の唇が軽く触れては離れるたび、頭の芯がしびれた。
俺はバカだ。
くらくらと、めまいのするような幸せを感じた。
「あ」
と、ふいに何かに気づいたらしく、阪東が声をあげた。
「テメ、ここケガしてんぞ」
ここ、と指先でなぞられた辺りが確かに痛い。
ベッドの上から腕を伸ばし、鏡を取って見る。
右の頬骨に沿うように、引きつれた傷が走ってた。
さっき阪東の爪が当たったところだ。
「勝手にケガとかしてんじゃねーよ」
言いながら、阪東は俺を引き寄せる。
思わず手を放した鏡が、床に落ちて大きな音をたてた。
お前がつけた傷だろうがって、言って聞く相手じゃ全然ねーよ。
戻る