パパは一度で
仕事から帰ると、マコからハガキが来てた。
「結婚しました」って、とっくに知ってるよ。
大方の予想どおり、高校に行った仲間内では一番早くに結婚したマコのタキシード姿。
写真はちょうどケーキ入刀。
こんなに緊張してる顔は、どんなケンカのときにも見たことがない。
泉の方がよっぽど余裕だ。
実家じゃなく、わざわざアパートに送ってきた。
いつ住所教えたっけ、って俺の記憶が確かなら、結婚式の前。
招待状送るからって言われて教えた。
マコの結婚式のとき。
新郎友人のテーブルで、やっぱ来なかったな、ってポンと目配せしあった。
マコは春道が来ないことは、最初から予想してたみたいで。
「そういや、お前、あいつの招待状どこに送ったんだ?」
聞いてみたら、鈴蘭、と答えが返ってきた。
「ちゃんと欠席の返事来たんだぜ」
それだけで充分って笑う。
俺の横で、「だよな」ってポンも、顔をくしゃくしゃにして笑う。
胸にバラの花を飾られたマコは、白のタキシードが全然似合わなかった。
二次会の黒いスーツは、できそこないの仲村トオルっていうより中間トオルで、これも意外と似合わない。
でも、最高にかっこよかった。
無口なマコが、現場の親父さんたちのテーブルを、ビール瓶片手に巡回する。
いつのまにか、陽気な若旦那になっていた親友の姿を、俺は目を細めて見てた。
あれで、高校の途中までは、俺やポンくらいとしかまともに口なんか利かなかったんだぜ。
思わず口をついて出そうになった言葉を、ビールで喉の奥に流しこむ。
飲み食いがひと段落ついた後には、新郎新婦への質問。
子どもは男と女とどっちがいいか。
司会者に聞かれて、それまでの質問で、いちいちしどろもどろになっていたマコは、
「男の子」
その質問だけ、妙にきっぱりと答えた。
理由は、娘だと嫁に出すとき悲しいから。
あんな悲しみには、もう二度と耐えられそうにない。
そう言って泣き真似をする。
ホント、性格変わったよな、あいつ。
聞きようによっては、隠し子でもいそうなマコの爆弾発言に、会場がちょっとどよめいた。
泉の友達らしい司会者が、何事もなかったかのように次の質問につないだから、その場は何ともなかったんだけど。
前を向いてたマコが、一瞬だけ俺たちのテーブルの方を向いて、俺をじっと見た。
そんな、いつくしむような眼差しで見られても困る。
隣のポンが、「だよな」と、何故か俺の肩に手を置いて呟く。
からかうのには慣れていても、からかわれるのには慣れていない。
その後、動揺した俺は酒を過ごして、二次会も終わる頃には、へろへろの足でタクシーに乗った。
生まれて初めて完全に記憶が飛んだ。
そんな結婚式。
マコからのハガキには、印刷されたものの他に、特にメッセージもない。
でも、引っくり返してみると、あて先には、俺の名前と並べてもう一つ、名前が書かれていた。
「ばんどうひでと……」
止せばいいのに、思わず読み上げてしまう。
「あのヤロウ……」
ハガキを片手に、俺は一人赤面した。
アパートの入り口で、春の夜風が、錆びた集合ポストをカタカタ鳴らす。
さすがに二度目だ。
動揺なんてしてやるものか、と思いつつ、顔が赤くなっていくのが止められない。
夜風に吹かれながら待っていても、当分おさまりそうにないから。
俺は、すぐに部屋に入って、阪東にこのハガキを見せてやることに決めた。
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