真夜中のショーガール
夢を見て目が覚めた。すげーえろい夢だった。
目覚めると、鼻先にヒロミの顔があった。
ここはどこだ?って、自分の部屋。
窓の外は暗い。何時だよ?って携帯で確認したら、午前二時だった。いわゆる丑三つ時だ。
うつ伏せに、顔だけ俺の方へ向けて、ヒロミはよく眠っている。
つるりとした頬に涙の跡があったから、シーツで拭ってやった。優しい。って、泣かせたのも俺だけど。
ヒロミを泣かせるのは俺一人。涙を拭いてやるのも俺一人。そう思ったら、すげー気分が良くなった。
枕元の煙草に伸ばしかけた手を止めて、ベッドの上に上半身だけ起こす。ヒロミの寝顔を見てたら、目覚める直前に見てた夢のえろさを思い出した。
何の夢だったかまでは覚えちゃいない。ただ、えろかった、って感覚だけが。下腹の方に燻るような熱だけが残ってる。
ヒロミとセックスして、散々出した後で良かった。こいつの横で夢精とか、かっこ悪すぎる、ありえねー。ていうか、そういや俺、夢精ってしたことねーな。
そう思いながら、ヒロミの顔に手を伸ばす。
こいつはオナニーあんまりしねーって言ってたし、俺もやるとき必ず抜いてやるわけじゃない。だから、ヒロミはしたことあるかもな。
どうせなら、俺の横ですりゃいいのに。
俺がかっこ悪いのはダメだけど、ヒロミならむしろ大歓迎。絶対他人に見せたくないようなみっともないところも、全部俺に見せろ。
俺は、敷き布団に半ば埋もれたヒロミの鼻を弾いた。ヒロミは不機嫌な顔をして、もがくように片腕を持ち上げると、もぞもぞ動いてこちらに背を向けた。
ベッドの下には、グシャグシャになったヒロミの学生服が落ちている。学校帰りに家に連れこんで、それから、一歩も外に出していない。
かわいそーな奴。明日これ着て学校行くのかよ。さぼるにしたって、これ着て家に帰んのか?
考えたらおかしくなって、立て膝に顔を押しつけるようにして俺は笑った。
俺に背中を向けたヒロミの項には、赤い痕がある。全部で五つ。全部俺が付けた。特に目立つやつだけで五つだから、部屋の電気でもつけて確認すれば、実際にはもっと付いてると思う。
体格はそんな変わんねーし、着られるはずだから、いっそのこと明日ヒロミには、俺の服を着せて登校させてやろうか。
そんなことを考える。
こいつが俺の匂いをぷんぷんさせて屋上に現われたら、杉原とか本城とか、春道もきっとすげー驚く。何て愉快。
ヒロミはどんな顔すんのかな?
すげー見てみてえ。マジでさせようか。
これ着てけって言ったら、ヒロミは最初だけ抵抗して、でも、多分すぐに折れる。項だけじゃない、全身に散らばるキスマークだってそうだった。
やめろって抗いながら、ヒロミはいつも俺を許す。怒らないんじゃなくて、怒れない。
咥えろって言えば咥えるし、開けって言う前に股なんて開く。
独りでしてみせろ、って。さっきのセックスでも、最中、半分冗談のつもりで俺は言った。そうしたら本当にした。
あんまりしたことないらしい。嘘吐いてんなって俺は殴ったけど、本当だった。
ぎこちない手つきで擦りながら、後ろも使うように言われたら、後ろも使う。ケツの穴に指を出し入れしながら、ヒロミは泣いて、泣きながら俺の名前を呼んだ。
目の前にいる俺を呼んでるんじゃない。気持ちいいから自然に出たって感じだった。
いつも何オカズにしてんだって問いつめたら、真っ赤な顔でうつむいた。一回くらいしたことあんだろ?何使ってんだ?
「…お前にされたこと」
今にも消え入りそうな声で、ヒロミは言った。俺にされたこと、思い出してしてる。
何だそれ?じゃあ、俺が抱いてやる前は、俺にされたいこととか考えてしてたのかよ?
そう言ったら、死ぬほど悔しそうな顔で、座ったまま蹴りを入れてきた。
真っ暗な部屋のベッドに横たわる、黒いハリネズミみたいな後ろ頭を撫でてやる。ヒロミは、もう一度寝返りをうって、こっちを向いた。
俺の何がこいつはそんなに好きなのか。俺には全く興味がないことだった。何でか知らねーけど、こいつは死ぬほど俺が好き。それで充分気持ちいい。
女の中には、寝てるときに子供みたいな顔になる奴がいる。あどけない顔で寝てるのを見ると、俺の腕の中で安心してんだな、って思う。そういうのって、すげーかわいい。
でも、ヒロミの寝顔にそれはない。寝てるときも、起きてるときと同じ。俺によく見せる、呆れたような困ったような、たまに本気で苛ついてる、そんな顔。薄い眉と眉の間に皺を寄せて、苦悶するような顔で寝てる。
バカな奴。
死ぬほど好きな男の腕の中にいるんだから、もっと幸せそうな顔すりゃいいのに。俺に逆らえねーなら、開き直って、百パーセント媚びりゃいいのに。
俺に抱かれるようになっても、未だにヒロミの態度は昔のまま。抗争に明け暮れてた頃とあんま変わんねー。
さっきのオナニーショーも。一体どこの世界に、観客に向かってクソヤロウ死ね!って叫びながら果てるショーガールがいるんだよ。
思い出せば笑える。
やれって言ったら、ヒロミはすげー嫌そうな顔をした。やめてもいいんだぜ、って俺は言った。そしたら、すげーショックみたいな顔をして。
お前得意の腹芸はどうしたんだよ?
一生懸命感じてないフリはしてたけど、ドロドロになった下半身晒してるんだから、完全に無駄なあがきで。むしろ、そういう態度が余計に相手を煽るって、分かんねーのかな?
かしこいヒロミは、大好きな俺が絡むと途端にバカになる。犬になる猫になるダメになる。
本当は全部計算とかだったらすげーけど、それだったら、俺は多分こんなにこいつに執着しない。
「起きろよ」
ささやくと、魔法にかかったみたいにヒロミは覚醒した。
こんなにかわいくねーのに、こんなにかわいい。
ヒロミの隣に転がって、寝たまま抱きしめると、背中に腕がまわる。抱いてやるって言うと、寝起きの顔で俺を睨んで、でも、ヒロミは確かに喉を鳴らした。
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阪東の一人称はむずかしい…。